1.手紙では困るんです
年末の大掃除で客間の天井灯の笠が毀れた。ここは建築時はシャンデリアを下げていたが、維持も掃除も面倒なので、10年くらい前、某メーカーの天井付けサークライン(4連)に取り替えたものだ。
4つのうち1つの笠が欠けているのは、どう見ても様にならないので、修復のため、近所の電気器具販売店を訪ねた。
店員に相談すると、面倒くさそうな態度。メーカー名を言ったら200~300頁のカタログ集を出してきて「どの品か見て下さい」と言う。商品分類を辿って見たが、該当するものは見あたらない。「ないよ」と言うと「メーカーが違うのではないか? 10年も前だと販売は中止しているかも知れない」と買った方が早いといった口ぶりだ。仕方なく東京のサービスセンターを聞き出して帰った。
メーカーのサービスセンターへ電話する。音声テープから聞こえる電話の声、「家庭用電気器具の用件は○番」とか「音響機器は○番へ」.......とか電話のキーボード番号を押せと言う。暫くして「照明」が出てきたのでキーボードを押したら人の声が出た。担当者(男性)が言うには、「問題の器具の型番を教えろ」とのこと。「型番は何処にあるのか」「器具に書いてあるはずです」。笠を外して調べたが、4灯とも見つからなかった。結局この相談も空振りに終わった。
2週間ぐらい後、市内の大型販売店へ実物の笠を持って相談に行く。ここなら修理部があって、メーカーとの取り次ぎも大丈夫と考えたからだ。担当者と前回と同様のやり取り。「型番は?」「ない」「笠にはないから、本体を外してきて!私達が見ます」と要求された。家に帰って再び脚立に登り、本体の照明灯を外す。今度は老人には無理なので、息子に手伝わせる。ネジが錆び付いて苦労する。漸く4連の中の一つがその晩に外れた。
翌日、本体の4連の1つの照明灯を段ボールに入れて、大型店へ運ぶ。折悪しく前日の係員は不在で、照明売り場の責任者らしき中年の男が出てくる。「昨日持ってくるように言われたので」と段ボールを開けると、面倒そうに「型番がそんな所に書いてあるとは思えない」と言う。「折角持ってきたのだ。兎に角、中を見てくれ」と蛍光灯を包む本体の内部のネジを開けさせた。その結果出てきたのはコイルを巻いたマグネットと配線だけ。記号も数字もなかった。
仕方がない。もう諦めるか、と思ったが、腹の虫が治まらない。帰宅後このメーカーの大阪本社へ電話をかけた。交換台から係へ、係の話では「修理相談センターという部署があります。有料ですが、番号や型番が分からなくても、相談されては如何がですか」と言う。
修理相談センターへ電話する。女子事務員が出る。関西なまりだが、きびきびした感じ。「本体の写真を撮ってサイズを知らせて下さい。ご用件はパソコンのメールで御願
します」と言う。私は「メールが出来ないので、手紙と写真を送ります」と。その時の彼女の返事、「手紙では困るんです」????
今の事務処理は紙のやり取りでは不便なのだ。と私が気づいたのは、その日の晩方に なってからであった。
善は急げ!十粁先に住む長女(主婦)に頼んで写真と用件のメールを送った。
翌々日午前、早くも電話があり「お客様がお求めの部品はありました!」と。「地獄で仏」とはこのことか。私は係の事務員さんに感謝すると共に、今後、パソコンメールの習熟を誓ったのであった。
2. 5万円の新品パソコンを100円で売ります。
2月の休日の昼、町田市内に買い物に出掛けた。休日の駅前中央通りは賑やかだ。
町田市は、小田急線、JR横浜線の足に恵まれ、戦後急膨張した町で人口は42万人を超える。駅の周りには戦前の新宿を思わせる古い商店街が並んでいたが、そこへ割って入るように新しく大型店が出現した。沿線住民の懐まで狙っているのか出店相次ぎ、この10年間ピーク時には百貨店5店、スーパーは10店を超えるオーバーストア(過当競争状態)となった。私達消費者にとって物価が安いのは有難いことだが、足腰の弱い店は次々と潰れて行く。
今日も明日から閉店という量販店の前に、閉店セールの看板が見える。その向かい側の量販店の前では、飾り風船で作ったアーチの奥から売り出しのマイクの声が響く。
「皆様、5万円のパソコンを100円でお売りします。宣伝販売中ですので先着10名様までとさせて頂きます」
その前を通ってみると、テーブルに白布の台、店員と思われる男女2人が見受けられたが、お客らしき人は一人も見えなかったので、そのまま通り過ぎた。
自分の買い物を済ませた帰路、閉店セールの量販店で見切り品の買い物をして、外に出ると、先ほどのパソコン宣伝販売の声が耳に入る。「5万円のパソコンが100円で買えます。もう3台売れました。あと7台です」

そのまま去り難く、又好奇心もあって、風船アーチの奥をのぞいて見る。若い制服を着た女子販売員が親しげに寄ってくる。「新品のパソコンです」と言ってビニールの包装から出してきたのは、ノート型パソコン。確かに誰の手にも触れなかったようなメタリック
の品の良い小型機械だ。(台湾製か?字が小さくて読めなかった)性能や操作方法を聞く。
「旅行中に使えるか?」「使えます」「インターネットの能力は?」「普通のパソコンと同じです」だんだん聞いていくと、「動かすには回線使用料が2,900円かかります。それから6,500円払って頂くと、もっと多くの機能が使えます」と言う。「エエッ 100円で使えないの?」と聞くと、「機械は100円ですが、回線使用料を頂かないと動きません」と言う。
漸く分かったのは、彼らは機械を餌に回線使用料を売っているのだ。丁度携帯電話をタダにして加入権を売るように。それにしても先に3人が買ったと言うが、その人たちはどうしたのだろうか。新手の催眠セールス、気をつけなければいけない。「頑張れよと言って別れた。